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理事長手記

理事長手記 1

「家族だからこそ」

 

「一生懸命に家族を介護していましたが、『ヘルパーさんは笑顔で接してくれるし、絶対に怒らない』と言われ、口げんかしてしました」「子どもから、何で障害者に生んだのかと言われ、言い争いになってしまい後悔しています」などといった家族からの相談をよく受けます。

そんな時、次のような言葉を伝えることにしています。「ヘルパーや介護者は仕事ですから、笑顔で接するのは当然のことです。それでも家族のように二十四時間、三百六十五日の介護はできません。私も仕事では無理でしょう。しかし、愛するわが子の介護は不思議とできるものです。それはお互いの感情をぶつけ合うからです。家族だからこそです」。私自身の三十一年間の介護経験から得た物です。

五年前からは子どもが人工呼吸器を付け、二十四時間体制で介護を続けています。昼間は妻が、夜間は私が介護を担当しています。痰が詰まれば命を落としかねず、片時も目が離せません。二時間以上続けて眠ることはなく、疲れと睡魔で子どもを大きな声で怒ったことも何度かありました。そんな時、吸引を終えて入りなおした布団の中で、罪悪感から涙が止まりませんでした。

「人間はどんなに頑張っても精神的、肉体的に限界がある。だから介護する側と受ける側の感情のぶつけ合いが合ってもなんら不思議はない」。そう思えるようになって、ようやく気持ちが楽になりました。

私も妻も確実に老いを感じ始め、家族介護という現実の厳しさを痛感しています。しかし、愛するわが子の介護は生きがいでもあり、できるだけ続けたいと願っています。こうした思いを持つ家族は少なくありません。年を取っても家族の介護ができるような施策を、行政に望みます。

 

平成19年・5・28(熊日夕刊・きょうの発言掲載)

就労支援センターテクニカル工房

施設長 山本 今朝一