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理事長手記

理事長手記 3

「頑張らなくていい」

 

「障害を持つ人たちは、私たちより二倍も三倍も頑張っています。そういう人に『頑張れ』とは言えません。私たちこそ頑張って追いつかなければなりません」。私が持論を話しますと、ほとんどの人が何を言っているのか分からないという表情をされます。

それはあたり前のことをあたり前にできるからです。だから分からないのが「あたり前」ともいえるでしょう。

例えば、私たちは呼吸をすることを真剣に考えて呼吸したことはないと思います。しかし、呼吸機能に障害がある人、例えば筋ジストロフィー患者にとってはそうではありません。呼吸器を付けるなど、生きるために何十倍もの努力で呼吸を続けています。

また、食べ物もそうです。飲み込む力が弱く、誤嚥などの嚥下障害のため、簡単に食べることはできません。それでも生きるために命懸けで食べておられます。楽しいはずの旅行も、車いすの人たちはトイレ利用が頻繁にならないよう、前日から水分を控えています。

このように、私たちがあたり前にできることを、障害を持つ人たちは私たちの分からないところで一生懸命に頑張って、日々を生きていらっしゃいます。そして、そのことに気付くことで「相手の立場に立って考える」ことができるのではないかと、強く思っています。

障害を持つ人を巡る議論の際、「自助努力が足りない」という言葉をよく聞きます。しかし、当事者のことを知り、状況を理解していれば絶対に出ない言葉ではないでしょうか。

大事なのは相手のことを理解し思いやること。私たちよりも何倍も頑張っている人たちに、「頑張れ」と、私はいえません。

 

平成19年・6・4(熊日夕刊・きょうの発言掲載)

就労支援センターテクニカル工房

管理者 山本 今朝一